HTVに関するJAXA記者会見
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は9月18日、HTVのISSへの結合成功を受けて、記者会見を開催した。出席者は虎野吉彦・HTVプロジェクトマネージャ。今回は、ちょっと記事にする時間がないので、読みにくいとは思うが、取材メモをそのまま掲載したい。
ISSへ結合されるHTV技術実証機(提供:NASA)
以下、虎野プロマネの発言。
———————–
事実をまず淡々と述べたい
主なところは
ISSの真後ろ5km(AI点)
最終的に接近する出発点だが
AI点を出発したのが0:31
HTVは真っ直ぐ近づくのではなくて、真下に付ける方法をとる
これはATVやプログレスと違うやり方。安全性を重視したやり方だ
真下500mを通過して300m点に到着し、停止したのが1:48
そこでHTVの点検を行った後
30mまで到達するわけだが
300m→30mの間で一度軌道上のデモンストレーション
ISSクルーの指示で300mに戻る(リトリート)
このデモも無事済んだ
30m点に到達したのが3:44
この状態でHTV・ISSの状況を確認して
出発したのが4:05
キャプチャ点 ISS直下10mに到着したのが4:27
ISSと一緒に7.7km/sで飛びながら相対停止
それからロボットアームでHTVをキャプチャしたのが4:51
ロボットアームでISSに結合作業
作業開始が6:41
機械的・電気的な接合・電源の切替・通信ケーブルの結合
全てが終わったのが10:49
ハッチをあけて乗り込むのは
明日の3:20~30あたりを予定している
我々にとって初めての作業で、HTV自身も初めての開発品
しかし予想以上にうまく作業が進んで満足している
小さいトラブルはいくつかあったが
障害になるものではまったくなかった
全く問題なく作業が完了したと報告していい
ーーーーーーーーーーーーー
質疑応答
Q 読売新聞
明日の予定の確認
3:20は日本時間か
A 日本時間だ
Q 誰が乗り込むのか
A 私は知らない
余談だが、今日は作業があまりにもうまくいったので
宇宙飛行士は今日中に入ろうとした
しかし時間がかかることが分かったので明日にした
Q 早く作業が進んだのは
要因はなにか
A 2つある
HTVとISSに取り付けたPROXなどのハードウェアやソフトウェアが
我々の意図通りの設計だったこと
もう1つは
HTVを運用している筑波のコントロールルーム
彼らの訓練の成果
どう対処するか散々訓練してきた
この2つのおかげだと思う
Q 時事通信
以前から自信はあるといっていたが
実際にキャプチャを見ていてどんな心境
その瞬間はどのように迎えたか
A 運用途中の心境は
一言いいたいのは
私は部下達を信用している
日ごろの努力は見ている
少々のことがあっても乗り切れると信じていた
特に動揺せず平常心で見ていられた
心境
キャプチャされることが最初の大難関と思っていた
ハッキリ言うと安堵した
キャプチャさえしてもらえればあとはクルーの責任w
ちょっと不謹慎ですがw
結合のときに2度目の安堵
まだ5時前 定時内は飲めないが
終わってから酒を飲みたい
ー東京
Q 読売新聞
HTVは有人技術の取得という目的
達成されたと思っているか
今回の成功にどのような意義
A ご希望に添える答えかどうかわからないが
HTVは与圧部があるということで有人対応仕様
これはJEMと同じ設計
そういう意味ではすでにJEMで実績があり
それをサイズダウンして踏襲した
有人仕様というのは1気圧のキャビンがあることだけではなく
さらに重要なのは、3重系を持っていること 少なくとも2重系
このことにより有人施設への接近を許される
有人宇宙機になってもよいということだと思っている
ただ残念ながら人間を長時間いかせるための装置・技術はない
それがないと有人宇宙機にはならない
まだ道半ばだが
今日の成功で安全設計や高信頼性設計の目処は立った
Q ニッポン放送
若田さんが将来は生鮮食料品を運びたいと言っていた
HTVは冷凍や冷蔵設備がつくと可能なのか
目処は
A HTVはトラック
トラックの設計者は生鮮食料品を運ぶためには
早く正確に持って行くことが使命
生鮮のまま維持するのはそれを開発する側の責任
本部の中の有人技術部が頑張って開発している
我々は早く確実に運ぶことに全力を尽くす
Q 2015年までの7機の内にはできるのか?
A できると思う
Q 共同通信
ISSのほかの参加国から何か反応は
A 白木理事や長谷川プログラムマネージャには
NASAやESAから”祝メール”が届いたと聞いている
私には日本人からもたくさん
Q Robot Watch
全体として極めて順調だったように見えるが
細かいエラーやトラブルは何かあったのか
A 大きく言って3つ
(1)SIGIという米国製のGPS受信機
GPSの衛星のデータを受信するのだが
ほっとくと、受信する衛星の数がどんどん減っていくのが分かった
ソフトのバグであった
いちいちリセットしながら使った
(2)ISSとHTVの間のPROXリンク 電波リンクが確保できたとき
テレメータが降りてくるが
こちらからのコマンドを最初受け付けてくれなかった
暗号化のキーをこちらと実際のが違った
キーをあわせて大丈夫だった
事前の手順の設定がよろしくなかった
大した問題ではない
(3)真下500mから10mへじりじり這い上っていくとき
一部のスラスタをパルス状にたくさん長く吹く必要があるが
スラスタのバルブの温度が許容値ギリギリになってきた
主系から一時冗長系に切り替えて
冗長系を使っている間に主系の温度を下げて
主系に戻して近づいた
Q 産経新聞
今後の係留中の課題、注意点は
A 宇宙飛行士の安全を気にする必要がある
1つの例は火災
検知する機能はついている
消す装置もついているので心配はしていない
クルーは経験を積んでいるので
心配はしていない
荷物の出し入れ
地上ではうまく積み込めたので
宇宙でも大丈夫だと思うが
出し入れの時に注意して
手を挟んだりしないで欲しい
Q デブリの心配は
A デブリバンパーを付けているので
ある大きさ以下ならぶつかっても大丈夫
ある大きさ以上ならISSが回避マヌーバをうつ
Q 朝日新聞
3点のトラブルについて
暗号化キーはいいとして
SIGIとスラスタなど
今後の運用機で設計の変更はあるのか
A SIGIはうまく乗り切れる運用方法が発見されているので
このまま使いたい
ほかのものに変えるとなると結構な開発期間とお金を要する
運用で簡単に乗り切れるのでこのまま行きたい
スラスタは
今回は初号機なのでいろんな試験をしながら近づいた
スラスタを酷使した
次回からは試験なしに極力早く行くので
今回のような厳しいスラスタの使い方はしない
今回のような温度の上昇はないだろう
Q 300m→10mの間のデモ
デモをやめたと聞いていたが
やっぱりやったのか
A やった
スラスタの温度が上がったので
当初の長いデモはやらなかったが
デモはやって問題ないことを確認した
Q 日刊工業
来年の運用機の開発に向けて改良点はなにかあるのか
A 今日現在まで分かっているところ
ソフトを少しいじる程度
ハードウェアの変更は必要ない
思ったより推進剤や電力を使わなかった
2号機以降は推進剤の搭載が少なくてすむかも
バッテリに至ってはさらに少なくなりそう
荷物をもしかしたら計画よりも多く搭載できるかもと
皮算用している
ーヒューストン
Q 朝日新聞
リエントリについての自信は
A 11日の打上げ以降
HTVの飛行管制の結果を見ると
予想通りに動いている
問題なく予定海域に落とせると自信を持っている
Q 2015年までに7機
シャトルが延命したときに、飛行計画への影響は
A もともと荷物が大量に運ばなければいけなくなって
HTVはもちろん残りの6機を必ず飛ばさなければいけない
プラスアルファでまだ運びたいのでシャトルを延命すると
私自身は理解している
ー筑波
Q 主な改良点
推進剤も電力も消費が少なかった
定量的にどのくらいか
A こういう言い方ではどうか
我々は最悪のケースを考えて燃料やバッテリを用意したが
あろうことか全てノミナルでいってしまったので
感覚的には半分以上余ってしまった
ただこのあともリエントリがある
何か起こったときに残しておけば良かったとなるかもしれない
リエントリのあとにまた聞いてもらえれば総括できると思う
ー東京
Q 共同通信
燃料の消費が少なかった要因は
軌道投入精度が良かったためか
燃料が余って
離脱後に飛行試験をするようなことはないのか
A 燃料が余ったのは
H-IIBロケットがほぼノミナルの軌道に入れてくれたこと
非常に燃料が助かった
もう1つは
トラブルが起きるとアボートという状態に入って接近を再開する
大きなアボートを3回はできるように燃料を積んだが1回も使わなかった
余った燃料をどうするかについて
試験をすることも考えられるが
まだISSは混んでいる
プログレスやソユーズが来る
近くでやるとジャマになる
考えてみたいが
計画通りのほうがいいかと思っている
ー筑波
Q 毎日新聞
燃料が半分余った
荷物を余分に載せられるとすると
どのくらいか
A 不謹慎にもそういったが
あと容量の問題もある
詳細な解析をこの後、半年から1年くらいやる
その結果が出ないと決められない
しかし容量の問題があるので
1トン増やすのは無理だと思う
———————–
以上。
東京での取材だったのだが、モニター越しでも分かる虎野プロマネの満面の笑みが印象的だった。本当におめでとうと言いたい。