北朝鮮「衛星」報道を検証する(その2)

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「ロケットかミサイルか」の次は、メディアの関心は公開された人工衛星「光明星3号」に移ったのだが、ロケットに続いて、衛星でも疑問符が付く報道が目立った。

○人工衛星はハリボテか?

公開された光明星3号は、現地からの報道によれば、大きさは50×50×100cmほど、重さは100kgだという。Googleで画像検索をするといろいろヒットするが、人間の身長と比べてみても、大きさは大体そんなもんだろう。重量は、一辺50cmの超小型衛星が大体50kg前後なので、それが2個分と考えると特に不自然さはない。

問題は、北朝鮮がこれを「実用衛星」と称していたことだ。メディアの興味はここに集中。記事では、「100kgでは小さすぎる」だの「クリーンルームに入ってないから偽物」だの、いろいろな理由を持ち出して「あれはハリボテ」「実用には堪えない」などと断定していた。

では、本当に光明星3号は実用衛星ではないのだろうか。

直接調べようがないので、ここからは推測するしかないが、北朝鮮が「実用衛星」と言ったのは、おそらくいつものハッタリだろう。本当に衛星として作られたのか、それとも精巧なハリボテなのか、写真からだけでは、正直判断はできない。だがもし衛星として作られたものと仮定すると、実用衛星ではなく、試験衛星レベルではないだろうか。

誤解して欲しくないが、サイズが問題なのではない。技術の問題だ。日本の技術であれば、もっと小さくても、実用的な衛星を作ることができる。これから打ち上げる衛星であるが、たとえばアクセルスペースの「WNISAT-1」は27cm角だが、北極海の海氷を観測することが目的だ。東北大・北大の「雷神2」や超小型衛星センターの「ほどよし1号」は50cm角クラスで、地上分解能5mの光学センサーを持つ。この両機にはリアクションホイールも搭載され、小さいながらも3軸制御を行う予定だ。

しかし北朝鮮には、おそらくそうした小型化の技術はない。それ以前の問題として、まだ1回も衛星の打ち上げに成功しておらず、軌道上での運用実績が全くない状態で、いきなり実用衛星を開発するのは「無謀」としか言いようがない。特に、北朝鮮は光明星3号の軌道上寿命を2年と言っているようだが、ちゃんとした技術実証なしには、それは不可能に近い。高熱・極寒、真空、強い放射線の宇宙空間で、2年間も衛星を動かすのは簡単なことではない。

だが、実用衛星でなければ、話は別だ。実用衛星であれば、撮影するために姿勢制御は必須だし、バッテリや通信機などの機器も長持ちさせる必要がある。しかし、「成功」と言い張るためだけならば、最低限、軌道上で数時間動作して、電波を出せればそれで十分だ。地上での受信に成功すれば、軌道投入の何よりの証拠になる。もし数日動いて写真が2~3枚も送れれば大成功だ。そのくらいであれば、不可能ではないかもしれない。

そもそも、ハリボテだろうと何だろうと、人工物であれば、軌道上にのれば「人工衛星」である。北朝鮮は衛星の打ち上げも禁止されているのであり、「実用衛星を打ち上げるのであればOK」なのではない。性能が低いだの何だの言うことは、本質とは全く関係のない話だ。どうしてメディアがここに拘るのか、どうにも理由が分からないのだが、彼らは「あれはミサイルだ」と言い張った以上、人工衛星が載っていると困るのかもしれない。

いずれにしても、ロケットの打ち上げに失敗してしまい、光明星3号まで出番が回らなかったことで、軌道上で動く能力があったのかどうか、確認する機会は永遠に失われてしまった。

以下、いくつか記事をピックアップ。

同氏は、宇宙で過酷な環境にさらされる精密機器の衛星はチリがつかない「クリーンルーム」に保管されるのが当然と考えていたが、むきだしの姿で報道陣の前に置かれていたことに「非常な驚き」を表明。「私は3歩進んで指でつつくこともできた。我々は長旅でほこりをかぶってきたのに彼らは衛星を保護すらしていなかった」とし、同氏が何度も「実物大の模型ではないのか」と確認したが、北朝鮮側は「本物です」と応じたことを明かした(4月10日 読売新聞)

これは米国の専門家がコメントしたという記事。もちろん、クリーンルームはあった方がいいし、大型衛星では使われているが、それは「不具合を減らす」ためであって、「なければ成功しない」とはイコールではない。そもそも彼らは2年も動かすことは本気で考えていないだろうから、クリーンルームがなくても全く不思議ではない。

北朝鮮が近く打ち上げるとして、北西部東倉里の西海衛星発射場で公開した地球観測衛星「光明星3号」について一夜明けた9日、専門家から疑問の声が上がった。高さ約1メートル、横幅、奥行きともに約50センチの長方形の箱は、人工衛星とはかけ離れており「金日成、金正日を称える歌を発信するための機械」との指摘も。衛星打ち上げは長距離弾道ミサイル発射実験とみられ、外務省は11日夜から24時間態勢で警戒に入る。(4月10日 スポニチ)

スポーツ新聞に何を言っても仕方ないのだが、説明にちょうど良いので紹介。この記事では、「人工衛星とはかけ離れており」とあるが、普通の衛星の形とは、何を指すのか。衛星には様々な形状があって、それにはすべて理由がある。たとえ見慣れない形であっても、合理的な理由があれば、全くおかしくはないし、あの形状自体、私は特におかしいとは思わない。

この記事はさらに続く。

人工衛星は、ソーラーパネルで周囲が覆われており縦長。通常なら、宇宙空間で太陽から少しでも多くのエネルギーを得るため、ソーラーパネルが羽のように開き、太陽の方向に合わせて調整できる構造になっている。公開された衛星には羽がなく、ただの長方形の箱。重さは約100キロという。

どうやら3軸制御の衛星をイメージしているようだが、スピン安定の衛星を全く考慮していない。本質を理解していないとしか言いようがないが、そもそも必要な電力をまかなうために、太陽電池の枚数や配置が考えられているのだ。もし消費電力が小さくて十分足りていれば、3軸制御でもパドルなんて不要。電力の見積もり無しに、形状だけで判断するのは無意味だ。付け加えるならば、光明星3号の高解像度画像では、ヒンジらしきものも見えており、もしかすると展開するのかもしれない。光明星3号の裏側も見られればもっといろいろ分かるのだが、残念ながら現地で確認した記者はいないようだ。

(補足2012/04/27)
ただ、報道された写真から推測すると、光明星3号は、重力傾度安定と磁気トルカを使った簡易的な3軸制御の衛星ではないかと思う。スピン安定はパッシブな姿勢制御方式であるが、回転体は慣性モーメントが最大の軸で安定する性質があって、あの縦長の形状では、縦方向を軸としたスピン安定は考えにくい。上に飛び出た白っぽいのは、重力傾度安定のための重りの可能性もある。

これに対し韓国政府関係者は「観測衛星は通常、先進国の技術でも1500キロを超え、100キロの大きさでは『実用』からほど遠い。核弾頭の小型化を見越した『模擬弾』の意味合いが強い」との見方を示す。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)によると日本の気象衛星は2トン以上。北朝鮮は「山林資源の分布と災害の程度、穀物の収穫高を判定し、気象予報と資源探査に必要な資料を収集する」としており、宇宙開発技術に詳しい日本の専門家は「これらを全て網羅しようとすれば何トンもの重量になるはずだ」と説明する(4月3日 産経新聞)

北朝鮮の説明で衛星は重量百キロで、箱型で高さ一メートルほど。同紙によれば、小さく軽すぎて、実用的な地球観測衛星に必要なカメラや各種データ処理、姿勢制御、電力生産、通信などの装置を正しく装備できる重さとは言えない(4月10日 東京新聞)

光明星3号は超小型衛星として考えるべきであり、数トンクラスの大型衛星と比較しても正しく評価はできない。小さい衛星には小さいなりのやり方があって、100kgだから実用的ではないということは全く無い。純粋に技術力の問題なのだ。また逆に、現状で北朝鮮が大型衛星を作り上げたとしたら、そんなものはなおさら、まともに動くわけがない。ステップとしては、超小型衛星から始めて大型化するのは正しく、納得できる。

ちなみに、経産省とNECが開発している「ASNARO」は、500kgクラスの衛星だが分解能50cm未満を達成する予定だ。数トンクラスでないと実用衛星ではないという認識は正しくない。

(以下続く)

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