北朝鮮「衛星」報道を検証する(その1)

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北朝鮮のロケット打ち上げ失敗から1週間ちょっとが経過した。公開された人工衛星や、メディアの報道姿勢などについて、私もTwitter上でいろいろ発言してきたが、今後のことも考えて、改めてまとめておきたいと思う。

○ロケットなのかミサイルなのか?

今回の北朝鮮報道においては、メディアの論調に私はかなり違和感を持った。

まず、なぜ北朝鮮が非難されるのか、その根本的なところだが、私が知る範囲では、TV各局・新聞各紙の論調は総じて「人工衛星の打ち上げロケットといいつつ、本当はミサイルなんでしょ」という妙なものだった。それを象徴しているのが、お決まりの『「衛星」打ち上げと称する北朝鮮の弾道ミサイル発射』というフレーズだ。

北朝鮮が打ち上げた「銀河3号」は、ロケットなのかミサイルなのか。

宇宙ファンには今さら言うまでもないことだが、ロケットもミサイルも頭に搭載するものが違うだけで、使っている技術はほぼ同じ。どちらも推進器はロケットエンジン。載っているのが人工衛星ならロケット、弾頭ならミサイルだ(日本語では、推進方式としてのロケットと、乗り物としてのロケットが同語であるのがややこしい)。もともと表裏一体の技術であるので、国連の安保理決議では、「ミサイル技術」として、発射はロケットも含めて禁止されている。

北朝鮮に対し、いかなる核実験又は弾道ミサイル技術を使用した発射もこれ以上実施しないことを要求する(国際連合安全保障理事会決議第1874号 和訳)

北朝鮮が「平和目的のロケット打ち上げだからいいでしょ」という論調で押し通そうとしているからと言って、その屁理屈につきあって、日本が「いや本当はミサイルだろう」などと、トンチンカンなことを言う必要はないのだ。

なぜ報道が「ミサイルかどうか」ということに拘るのか。銀河3号が弾道ミサイルを改造したものだから、というつもりかもしれないが、ミサイルを改造したロケットの打ち上げはロシアもやっている。それだけでは批判はできない。論点は、「北朝鮮はロケットでも禁止されている」ということにつきる。

だから、ロケットなのかミサイルなのかという議論には全く意味がない。実際のところ、北朝鮮にとっては、衛星を積んだロケットを打ち上げてもミサイル技術の貴重なデータを得られるわけで、あれは本当にロケットであり、「あわよくば韓国よりも先に衛星打ち上げに成功したい」という狙いがあると考えた方が合理的だ。北朝鮮の真意をくめば、「ロケットと称するミサイル発射」なのではなく、「ロケットを使ったミサイル技術実験・恫喝外交」と言った方が正しい。

ここで、記事をいくつかピックアップ。

北朝鮮が「人工衛星」と主張する長距離弾道ミサイルの発射問題で、北朝鮮がロケット先端部分の落下区域を国際機関へ通告していないことが分かった。各国が衛星を打ち上げる場合、国際機関に通告するのが通例。専門家は、先端部分の覆いが外れて落ちない限り、搭載された衛星は宇宙空間に投入できないと指摘。北朝鮮の「人工衛星」との主張に科学的疑問が出ている(4月8日 東京新聞)

国際海事機関(IMO)への通知の中に、「フェアリングの落下範囲」がなかったことから、ロケットではなくてミサイルの実験ではないかという主張だが、これもどうにも論拠が薄い。これについて私は、通知自体が北朝鮮のアリバイ作りのようなもので、そもそも真面目にやってないだけではないかと思っている。もし北朝鮮がミサイルの偽装をやる気満々であれば、むしろそれらしいフェアリングの落下範囲を通知しているはずであり、これが欠けているからといってミサイルだと言い張るのは無理がありすぎる。北朝鮮の言うことなんて信用してないくせに、どうして「通知だけは正直にやっている」と思うのだろうか、不思議だ。

北朝鮮が長距離弾道ミサイルの発射に使うとみられるのは、「ヒドラジン」と呼ばれる液体燃料。製造や保存がたやすく、安定性も高いが、皮膚や目に付着すると激しいやけどを引き起こし、気化したガスを大量に吸うと神経系が侵され、死に至る恐れもあるという(4月11日 読売新聞)

この記事のタイトルは「北ミサイル燃料に強い毒性、大量吸引なら死亡も」。確かにヒドラジンは人体に有毒だが、ロシアや中国のロケットでも普通に使われているし、日本の人工衛星や探査機にも搭載されている。「ヒドラジンは猛毒」という事実は正しいが、相当にベクトルがかかっており、印象操作としか言いようがない。それに、北朝鮮はロケットの推進剤について、公式には明らかにしていないはずだ。ケロシンの可能性もあり、正確なところは分からない。

銀河3号について、津江光洋・東京大教授(航空宇宙工学)は「人工衛星を周回軌道に乗せるには一定の速度が必要だ。しかし日本のロケットのように補助ブースターをつけたようにも見えない」と指摘する。液体燃料が使われる見通しだが、「日本のロケットが使うような液体水素と液体酸素の混合燃料は使っていない」とみる。09年の発射は「噴射の炎がオレンジ色だったが、液体水素ではあんな色は出ない。普通はミサイルには液体水素などは使われないことから、今回もミサイルの特徴が強いのではないか」と強調する(4月10日 毎日新聞)

この記事に至っては論外だ。液体水素・液体酸素以外の液体燃料ロケットはみんなミサイルらしい。ソユーズもプロトンも長征もアトラスVもみんなミサイルだ。

(以下続く)

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