はやぶさウィークリーブリーフィング第5回
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は8月23日(月)、小惑星探査機「はやぶさ」のカプセル内のサンプル採集作業について説明するブリーフィングの第5回を開催した。お盆があったので、ブリーフィングの開催は2週間ぶり。
出席者は上野宗孝・JAXA/ISASミッション機器系グループ副グループ長。今回も記事化の予定はないのだが、取材メモをそのまま以下に添付する。
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ブリーフィングは1週間飛んだが
作業はその間も続いていた
前回説明したように
ペース自身は人が減ったので
この2週間はゆっくり進んだ
前回の説明からの大きな変化というのは
作業自体に変化はないが
報道発表のタイミングを今回改訂した
初期分析の開始を9月以降としていたが
もう少し時間がかかりそう
12月以降に改めた
これについて説明したい
前回話したように
現在はサンプルキャッチャー内の試料
当初マニピュレータを使って取り出す
その後ヘラを使った採取を行った
内壁にヘラをこすりつけて取り出す
ヘラ表面の微粒子をマニピュレータでシャーレに
移す作業を続けていた
この作業に並行していくつかの準備
その1つは
ヘラの上に乗っている粒子をシャーレへ
作業は引き続き行われているが
光学顕微鏡で見えるものしか拾えない
原理的には光学顕微鏡で見えないものも
乗っているはず
ヘラ自体を電子顕微鏡にもっていって
どのくらいの粒子がついているのか調べたい
この準備をしていた
そろそろ見る準備ができてきて
いま調整段階まで来ている
光学顕微鏡で見える物を拾ってあとに残った細かい粒子を
どうやって扱っていけるかを検討する段階になった
それが現在までの状況
光学顕微鏡で見えないような粒子はどうもついているようだが
しかし光学顕微鏡で見えないものをどうやって扱うか
試行錯誤を始めようとしているところ
もう1つは
中を再度観察する
今回は模型を持ってきた
内部はかなり入り組んだ構造をしている
上から顕微鏡でみて隅々まで見えるかというと
じつは回り込んだ場所が何カ所かあって
残念ながら普通に考えると見られない
マニピュレータの針が真っ直ぐ届かない場所もある
それは隅の部分
隅の部分は入り口に近い
入り口から粒子が入ってくると
ほかの場所よりも確率的に高いと思われる部分
そこに残念ながらアクセスできてない
顕微鏡でのぞき込めるようにに工夫
なんとかマニピュレータで作業できないかと
新しい針を用意できないかと
その辺を一通りきちんと進めてから
未開封のB室に移りたい
アクセスするための道具作りを進めているので
B室に行くのはもう少し時間がかかりそう
初期分析については
全体のサンプルを見て
その総量に応じて何パーセントをまわす
A室B室の総量が見えてから初期分析にまわす
最初から国内外と約束しているので
B室の様子がある程度把握できてから初期分析
A室の時間がかかるのと
B室を始めるのが遅れるので
初期分析の開始を「12月以降」に改めた
キュレーション作業の進行状況は以上
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質疑応答
Q 朝日新聞
電子顕微鏡でざっとは見たのか
A あまりきちんと個々の粒子は見ていないが
乗っているようだというのは確認しつつある
Q 大きさはどのくらいか
A まだ調整ができていないので大きさがどうこうは非常に難しい
電子顕微鏡の解像度は高い
光学顕微鏡に比べると1000倍小さくても見える
粒子の構造が見えるかというと
まだそこまでいっていない
大きさは
1ミクロン以下の粒子
光学は数ミクロンが限界
Q 真っ直ぐアクセスできない場所
A のぞき込むためのステージの準備している
真っ直ぐのぞき込めないので
順番に端から見るための準備をしている
Q 歯医者で使うような先が曲がったものなのか
A 曲がっているものを作りたいが
石英ガラスの中に電極が通っている特殊なもの
作るのが非常に難しい
電極が通ってないと静電気をコントロールできないので
通った状態で曲げないといけない
試作に苦労している
Q それがまだできていない?
A 製作中
いまメンバーが努力して調整しているところ
Q いつまでに?
A いつとは言えない
針の製作は1週間オーダーで進むと思う
Q 光学顕微鏡で見ながらアクセスするのか
A 見ながらになる
顕微鏡とマニピュレータの場所の取り合いになる
いままでの道具だとぶつかる
その辺の工夫も必要
Q 光学顕微鏡では鏡みたいのものを使うか
A そういうものを準備したい
1週間とか10日で準備したい
8月中には進めたい
Q NHK
前回のブリーフィングで説明
シャーレの粒子は
もう電子顕微鏡で見たのか
A まだきちんと見ていない
試験を始めているところ
とりあえず最初は光学顕微鏡で見て
地球物質らしいものから試験的に
電子顕微鏡で像が得られるように調整している
まだ本格的に始めたとは言えない
Q 見ているものがある?
A 見ているものはある
形がどうこう見えるようにするには
ビーム強度などを調整しないといけない
そこまでは行っていない
Q 粒子の由来 見当はついているのか
A 解析できるまでは行っていない
多分地球のものだろうという感じではある
Q どうすれば確定できるのか
A 結晶が綺麗に見えるとか
組成が分かるくらいまで顕微鏡の調整をしないと
そんなに時間がかからないで見えるようになるのでは
Q いくつ見ているのか
A いかにもハズレというものを数粒見ただけ
Q 日経新聞
初期分析といまの電子顕微鏡の分析の違いは?
A 初期分析でないと同位体組成とかは分からない
最終的な結論は分析にまわってから
Q 電子顕微鏡で見るのは簡易診断ということで
確定診断ではない?
A 電子顕微鏡は分かる情報は限定的
形と一部の組成は分かるが情報としては限られている
きちんとした組成分析や同位体の測定は
初期分析にまわさないと分からない
本当に地球外なのか地球物質か
最終的に判断できるのは初期分析でないと
Q 初期分析はX線を当てるとか?
A メンバーによってできることできないことがある
いくつかのチームでそれぞれの手法で
Q どんな手法
A 例えばX線をあてて
同位体の比率
中の設備ではできないが外部で
ハズレでなくてそれっぽいものを
初期分析に回したい
Q 東京新聞
12月以降になった理由は端的に言うと
当初の想定よりも大きな粒子がなかったということか
A それが一番大きい
ある程度扱いやすい粒子が入っていれば
その時点でわりと早めに全体を見て
初期分析に回すことができるが
いまのところ細かくて扱いが大変なものしか
A室について時間がかかっている
Q B室も同様の傾向と推測しているか
A B室はやってみないと分からないが
期待としてはA室よりも大きなものが入っていると期待している
Q 作業のやり方を確立しておく必要があると
A B室に行った場合でも
小さなものも取り出してカタログ化をする
いずれにしてもやらないといけない作業
Q B室の時期の目処は
A なんとか
時期の特定は難しい
12月までには行けるといいなと
Q 読売新聞
電子顕微鏡で見ている
シャーレ いかにもハズレなもの
A 比較的分かりやすそうなものでとりあえず始めた
その中にどのくらい地球外のものがあるのか
いまのところ分からない
Q ヘラの上
地球のものと違うものはあるか
A 今のところそこまでいけてない
大きなものから順番にやっている
段々と見えなくなって
ざっとどのくらいあるのか調べたい
光学顕微鏡で見えないものを
このあとどうやって扱うか
いま思案しているところ
Q 毎日新聞
初期分析の開始 3カ月後ろに
これは余裕があるのか
A 今までのペースを見てこれくらいならという感じ
B室を開けてみて大きな粒子がたくさん入っていて
初期分析が早くなる可能性がないわけではない
Q 初期分析でも同じ理由で分析に時間がかかるのか
イトカワ由来かの判別は
A B室にどれくらい入っているかにもよる
光学顕微鏡で見えるくらいのサイズなら
ある程度の分析はできるはず
問題は精度がどのくらいになるか それは量次第
こればかりは予測できない
初期分析に移ったらなるべくはやく伝えたい
Q 時期は
A まだ読めない
分析するのに
共同利用と装置を借りることもある
その場合スケジューリングの対応も関わってくる
現時点でもう少し近づかないとなんとも言えない
Q 共同通信
初期分析で考えていたものの中で
これはできないと判断されたものはあるか
例えば有機物の分析とか
A ほとんどの分析はこのくらいのサイズでもいまは頑張れる範囲
当初予定していたのは一通りやると思う
Q 時事通信
サンプル採取から1カ月
微粒子は光学顕微鏡で何個くらい
A 正確に言うのは難しい
ヘラの回収で数十個と言っていたが
最終的にどのくらいまで行くか分からない
A室に関しては
光学顕微鏡では100以下ではないか
期待の大きな部分がいまは見にくい状況
これからどうなるか
Q 朝日新聞
電子顕微鏡だとどこまでも調べられる
確かに準備が必要なのは分かるが
そこまでしてB室を開けない理由は
A 隙間の部分というのは
B室に移ったときに中を解体する作業に入る
そこらへんで底の方の粒子も失われないように
一通りチェックした方がいい
完全に粒子を拾うのはムリだが
失わないように確認してからB室に移行したい
Q 日経サイエンス
いまさらながらの質問だが
B室は先にできなかったのか
A 取り外しの順序からすると
A室からになっていた
そういう組立をしてしまっていた
Q 最初に工夫していたらB室からもできたのか
A そういう考え方もあるとは思うが…
Q へこんでいるところはまだ
ヘラでもなでていないのか
A 見えない部分になっているので難しい
Q B室も同じような構造?
A 大体同じ
A室の方が若干アクセスしにくい部分が多い
わずかな差だが
Q B室に行くときに隙間から落ちることも?
A 隙間はあるので可能性はゼロではないが
実際には静電気でくっついているので
簡単には動かない
隙間に落ち込んでいるものは注意が必要
Q アメリカのスターダスト
何か使えるものはないのか
A スターダストは中空ではなくて
ジェルの中に収まっている
それをお菓子を切り分けるようにスライスして
向こうは
物質を取り出すという経験をしていない
Q 入れ物の中から出すのは日本が世界で初めて?
A 向こうは高速で飛んできたダストを捕まえる
こちらは地上のチリを巻き上げて回収
方式が全然違う
対象が違うので
Q ヘラを1回やってから別のヘラでもう1回やれば
濃縮されるのでは
A 粒子が破壊される可能性もあるので慎重にやっている
Q NHK
ヘラの件で確認
電子顕微鏡で見る準備が整いつつある
検討されていたヘラの材質は固まったのか
それを使ったのか
A いまやっているのは当初のヘラの上で
非常に扱いにくい状態だ
今後は電子顕微鏡で見るためのヘラで
いろんな材質のヘラで
模擬的に試験をしている
大体そろそろ結論は出ると思う
Q 東京新聞
A室の確認
曲がった針で回収を試みる
その後ヘラを作ってこすると
A 両方することになる
Q それで終わり?
A 大体見て
小さいものは残っていると思うが
概ねいいと思った時点でB室に行くと思う
Q 電子顕微鏡で見る作業と
B室の回収を平行?
A 平行してやることになると思う
Q ニッポン放送
中が入り組んだ構造
それは想定外のことか
A 扱いやすい粒子が多ければそこまで
凝ったことはしなかったかもしれない
やはり粒子が小さいということが
かなり本質的
Q 心情では大変?
A 粒子のピックアップも時間がかかる
どこまで頑張るかというのは
バランスが難しいとつくづく思う
本当にギリギリまで行くとキリがない世界
やり直しができないので
なるべく丁寧に作業している
Q 赤旗新聞
粒子とは別のガスの方の分析の予定は
A 分析のスケジュールは見えていない
Q 不明
ガスは初期分析後か
それとも先行して
A 先行してできると思う
広報
相模原にプレスは?
来ていない
これにて終了
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ぶら下がり
Q 不明
カプセル内のどこにあったのかという
位置情報に意味はあるのか
A 位置情報自体に意味はない
それは偶然そこにいるだけ
Q だったらバラしてコンコンと
しちゃえばいいのでは
(容器を逆さまにして粒子を落とす)
A じつはコンコンはやってるんですw
もちろん一番最初にやっている
ただ粒子が小さいと静電気が強いので
コンコンでは落ちない
Q B室も開けたらやっぱりコンコンとやるのか
A 最初にやると思う
Q 大塚
サンプル回収
内壁の面積で
いままで手つかずの割合は
A 面積からすると半分以上は見ていると思うが
肝心なところが見えていない
Q 不明
地球物質っぽいというのはどうして分かったのか
A メンバーの人間は隕石とかを一通り見たことがある
そういうものに似たものかどうか
見た目だけの判断
ホコリっぽいかなというものが
今のところ多い
Q ありそうだという感触は
A 今のところ何とも言えない
A室はタッチダウンの時間が短い
本命はB室と我々も思っている
Q 大塚
2回目のタッチダウンは弾丸が出なかったと
推測されていたが、この結果から見ると
それは確定と考えて良いか
A この感じからすると
ほとんどそうだろうと思う
Q マイコミ
サンプルキャッチャーの構造
いま考えるとこの形じゃなかった方が良かったんじゃあ…
A もうちょっと扱いやすい形だったら…
でもこんな固体微粒子を持って帰るのは初めてだったので
一度はやってみないと次どうしようというところに行けない
Q 大塚
次(はやぶさ2)では改良したい?
A 次はやはりもう少し取り出しやすい形に改良したい
コンコンで出てくるような大きな粒子だったら
この形でも何の問題もなかったのだが
でも大きな粒子があっても小さな粒子まで
最終的には扱いたくなると思うので
小さな粒子もきちんと使える形に工夫が必要
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次回のブリーフィングは8月30日(月)に開催される予定。当初、初期分析の開始は「9月以降」とされていたため、じつはこれ以降のブリーフィングが予定されていなかったのだが、遅れることが確定になったために、JAXAは今後も定期的に開催していく方向で検討中だ。ただ毎週やってもネタがないため、隔週での開催が有力。決まり次第またお伝えしたい。