はやぶさ、カプセル開封作業の状況に関する記者説明会
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は5日(月)、小惑星探査機「はやぶさ」が持ち帰ったカプセルの開封作業について、記者説明会を開催した。登壇者は川口淳一郎プロジェクトマネージャ、向井利典・JAXA技術参与、上野宗孝・JAXA/ISASミッション機器系グループ副グループ長。
会見の内容を以下に取材メモの形で添付する。
ーーーーーー
川口プロマネ
6/24からコンテナの開封作業を開始した
その後
コンテナの開封
キャッチャーの引き上げ
キャッチャーA室のフタをあけて内部の点検
コンテナ内部の点検
といった作業を行った
A室と呼ばれていた場所を移送
本格的な点検にかかっていた
開封に一週間かかると話をしたが
そのあと試料を実際に採取して
その時点でまた話をするとしていた
今日はその一週間が経過した段階
そのときも説明したが
地上から往復した試料があることは間違いないと
それと何が見つかってもその起源はわからない
と言っていた
それは大前提
現在は
まだA室を開けている段階
B室の情報はまだ何もない
本日までは
コンテナ部、キャッチャーA室
の中に複数の
肉眼で見えるものと
顕微鏡サイズのもの
試料とおもわれるものが確認された
ー
向井
上の写真は
A室の微粒子を石英の針で試験的に
ピックアップしているところ
横に伸びているのが針
その上は光の影
先に見える黒っぽいのが粒子と同定されたもの
100倍の顕微鏡で見ている写真
背景のスジは機械加工の刃のあと
そのほかの黒っぽいのも傷と思われる
なぜ傷かというと
針の先を近づけても動かないから
下の写真は
別室に保管しているコンテナの内部
これは普通の写真撮影
目で見て分かる粒子がいくつかある
これが何ものかは分からないが
まぁ多分地球のモノじゃないかと思っています
なので誤解は受けないように
分からない状況で断定できないことを言うのは避けたい
地球のゴミは射点やクリーンルームでダストをすでに調べている
それと比較すればすぐに分かること
現状はそういうところ
まだ1個2個という状況なので
前回の記者説明会では
コンテナやキャッチャーの構造について説明した
これはフライト品と同じように作ったプロトモデル
どこを見ているか説明
ー
上野
最初の作業で上下の部分を取り外した
これでA室をのぞき込むことができる状況
これが現状
採取した物質は横から入って
内部は上下2部屋に別れている
その1部屋のほうを現在は見ている状況
ーーーーーーー
質疑応答
Q 毎日新聞
いくつくらい入っていた?
肉眼で
顕微鏡で
A 向井
数えたわけじゃないが
見え方によっても変わる
顕微鏡で見えるもの
粒子と同定されたものは2つしかない
動かないものは粒子でないのか
それともくっついて動かないだけか
それはまだ分からない
1つ1つ調べているのが現在の状況
100倍の顕微鏡で見ているので
くまなく探すのが非常に大変な作業
Q 肉眼だと少なくても10個?
A 向井
10個は見えている感じ
10個以上か
Q 日経
顕微鏡で見えているものの大きさは
肉眼で見ているものも大きさは
イトカワ着陸時
キャッチャーに入るのが主で
コンテナにも入る可能性もあるが
可能性が高いのはキャッチャーか
A 向井
スケールがまだ出てないが
大きさは10ミクロンのオーダーだろう
コンマ1ミリのような大きなものではない
10ミクロンよりも大きいかもしれないが
肉眼で見えるのは1ミリくらいかなぁ
穴がM3のボルトなので
それをスケールにすれば1ミリよりも大きいかも
A 川口
サンプラーはこうなっていて
筒が回転するようになっている
サンプラーホーンを引き抜くわけだが
引き抜くときに開いているところから
付着したものがコンテナの中に入る可能性はある
ただし、だと言っているわけではない
最初から付着したものが地球から運ばれたのかもしれない
キャッチャーのみに入るかという質問については
それ以外につく可能性もゼロではない
Q 日本放送
粒子の形状はまだ分からないか
A 向井
この写真が最高の分解能
まだ形状は断定できない
Q 東京新聞
A室で確認した粒子2つ
これは予想よりも少ないのか
それとももっとあると
マニピュレータの先端は何ミリか
A 向井
数の予想は難しい
予想を立てていたわけじゃない
似たようなサイズの黒っぽい斑点とかがある
いまのところは傷だと思っているが
現在見つかっているものが全てではないのが明らか
そういうのを調べている段階
数からすると私の試算だと
地球由来のものが全部で最低100個はあってしかるべき
数百から多いと1万かもしれない
これは私のざっとした試算
ある仮定のもとで推論したもの
正しいかどうかは分からないが
それに比べると2個や3個じゃないはず
何度も繰り返すが
粒子かどうか区別している状況
マニピュレータの先端は見えない
1ミクロン以下
Q 共同通信
サンプルキャッチャー
A室はいつのものか
A 川口
A室は2回目の着陸
(B室が1回目)
Q この先の作業は
まずはA室を終わらせてからか
A 上野
A室をカタログしてからB室に移る
いま顕微鏡の最高解像度で見ているが
本当によい分解能でみえる範囲は限定されている
本当の限界までの粒子を端からは端まで見ていない
Q すでに採取はしている?
A 向井
これがどこにあったと番号を付けるのはまだ
しかし一応動かして
動いたなというところ
キャッチャーの壁を顕微鏡で見るのはとても大変
ここにあるものは何も見ていない状況
方法も考え直した上で
すべてマニピュレータではなくて
別の方法がないか
そういうことも今後トライアルしないと
Q 朝日新聞
微粒子 10ミクロン
サンプルキャッチャー内の何割程度を見ての2粒か
肉眼で見えるもの
地球からだとどういうものか
A 向井
ここの平らな部分とこの一部
まだ何割と言えるようなものではない
壁は見るのが大変
試行錯誤している段階
壁を見る方法を何か考えて
いくつか方法はあるが
マニピュレータは石英に電圧をかけて
粒子の帯電を利用してくっつける
あるいはテフロンだと微粒子がくっつきやすいので
しかし機械的に動かすと変質しやすいので慎重にしないと
Q 最初はハケで掻き出すというのも当初想定していたようだが
A そうですね
ざっくざくあればハケで
しかし今はそういう状況ではない
テフロンのハケで動かすとくっつくものはあるかもしれない
地球からきたものとすると
いろんな可能性があるが
衛星が組み立てられるクリーンルームは
(清浄度が)クラス10万と呼ばれるもの
つまり1立方フィートに0.5ミクロンの粒子が10万個ある
そういうところで組み立てられている
そのあとロケットに衛星が組み込まれて
そのあとフェアリングをかぶる
その中にクリーンな大気を入れるが
それもクラス10万のレベル
フェアリングを作っているのはロケットの普通の工場
内面にはいろんなものがついている可能性がある
そういうものがどういう経路で入るのか
シミュレーションをしようもない難しい問題
衛星はほとんどクリーンルーム内か同等の環境にいる
粒子のソースとしてはそういうところ
Q 目で見て大きいので
これがクリーンルームにあるとは考えにくいが…
A 確かに考えにくい
私もそう思う
地球からきたものだと思うのは
フェアリングの中にはいろいろある
ロケットの打ち上げ時
フェアリングが開いたとき
搭載カメラでもホコリが見える
そういうものの可能性もゼロではない
ただし地球のものだと断定しているわけではない
Q 毎日新聞
地球のものだというのは
それ以外になにか理由は
A 向井
コズミックダストの研究者の意見で
そういうものとはちょっと違うねぇと
感触だが
色が違うとか
こんな真っ白なものは見たことないと
例えばそういう感じ
大発見かもしれないが確率は低いかな
A 上野
サンプルはホーンからここに伝わるはず
コンテナに入る確率は低いと思っている
Q 日本テレビ
微粒子 現時点では
地球由来とイトカワ由来の
どちらの確率が高い?
A 向井
いまは断定できないのが正解
コズミックダストとは違うねぇという感触
正確に言えばどちらの可能性もある
Q 読売新聞
今後の予定は
A 向井
B室も見てから
最終的には回収したサンプルは全て分析にかけられるが
それにはいろんな手順がある
まずは代表的なものを分析する
打ち上げ前にたくさんあると想定して作ったプランだが
およそ全体の10~15%が最初の対象
10%はNASAに渡す
40%くらいは国際公募をして分析してもらう
残りはしばらく保管して
分析技術は日進月歩
将来的にさらに技術が進んだときのために
ある程度は残しておく
そういう段取りだった
まず何が代表的な15%なのかを調べないと
全てを回収するのはすごく大変な作業
何年もかかるかもしれないが
そんなにはとても待てない
ある程度、3カ月かそこら
B室の中も見て、何がどのくらいあるか
おおよその見当を付けた上で、
その中で15%なのか
数が少なければ30%になるかもしれないが
それを最初の初期分析に使う
初期分析は
国際的な公募をして
世界中の研究者達が
自分たちも分析したいという
意欲をそそるように
それが初期分析
なので一気に分析するわけではない
まずは何を持って代表データとするか
ある程度出たところで議論する
Q 不明
まだ分からないことが多いだろうが
微粒子が見つかったということで
いまどういう思いか
A 川口
なにはともあれ
空っぽでなかったということも
大変大事なこと
地球由来で往復したものがあることは間違いない
と言いつつも
空っぽでなかったということは
可能性を残したということで
そこは素直に喜びたい
ただ一喜一憂するものではない
高い確率で地球由来のものだろう
予断をもってはならないし
過剰な期待もしてはならない
虚心に帰ってきちんと分析したい
Q 毎日新聞
作業の手順について
地球由来のものを排除する作業
スクリーニングの終了の見通しは
A 向井
粒子かなにかの見分けをやっているところ
いま数字を出すのは難しいが
サイエンスの世界でも関心をもたれているところなので
何年も時間はかけられない
だが1カ月かそこらで見えるかといえば
そうは思えない
2~3カ月かなと
もし宇宙物質があるとわかれば
大きなインパクトがある
逆に言えばそれは非常に慎重にしないといけない
そう言う意味では答えるのは非常に難しい状態
Q 当初は半年と言っていたが
A 向井
当初の予想は数が少ないだろうと
地球のものがある程度あったとして
イトカワのものがどのくらいあるか
あるのを期待しているが少ないだろうと
3カ月から分析を初めて半年くらいが目処かなと
ー相模原に
Q 青木
カプセルにガスと粒子
ガスの由来は調べているのか
粒子
宇宙空間を飛行中にダストが入る可能性は
燃料漏れに由来する可能性は
クリーンルームのダストの標本
どういうものか
A 向井
ガスの由来は調べていない
可能性は地球の大気
イトカワのガスはどのくらいかデータはない
燃料漏れ由来の物質は考えにくい
ゼロだと考えていいと思う
惑星間ダストはあるがその確率も
ほとんどゼロ
可能性の排除はできないが
地上のサンプルは分析している
宇宙のものとは明らかに違う
内之浦は桜島に近いので
火山灰も分析している
Q 地上のサンプルとの比較はこれからか
A 向井
そのとおり
作業に入るのはあと数か月かかる
Q 地上のサンプル
何種類くらい物質があったのか
A 向井
代表的なものをいくつか分析した
スペクトルは10種類くらい
ー再び東京
Q NHK
代表的な15%で初期分析
それはイトカワの可能性が高いもの?
A 向井
できるだけイトカワ由来のものを選びたいが
前から分かるわけではない
初期分析の中で同位体分析や成分分析があるので
その結果を総合して判断する
Q 初期分析の前に
イトカワ由来かどうか判断はできないのか
A 向井
ある程度はやる
主に電子顕微鏡
地球由来か外のものかの確率が
外のものが高いかなというくらいは言える
おおよその元素組成は出る
しかし電子顕微鏡は電子ビームをスキャンするもの
人工的なことを加えるので表面を変質させる
強度を弱く慎重にしないと
今じつはそのパラメータは試験している
まだその準備もあわせてやっているところ
だが期待としては
分析にまわすとすると
80%くらいの確率でという感じに
断定するのはまだとても無理
Q イトカワ由来の可能性が80%ということか
A 私の単なる感触
20%は違うかも
その数字が一人歩きすると困るが
代表的なものを選ぶときは
可能性が高いものを選ぶのは当然
Q 日本放送
これまでの作業のペースから見て
順調な予定か
状況を山で例えると何合目
A 向井
作業は想定内
しかしリハーサルから予想されていたが
粒子か傷かの同定は非常に大変
5合目なんてとてもとても
まだ麓
A 川口
人によって感触の数字は違うが
顕微鏡で探すのは大変時間がかかる作業
いま1週間で2個というペース
1つのサンプルを探すのに5日かかるとすると
40個で200日かかる
代表的なもの
可能性の高いものを15%で6個選ぶと
1つ1つ初期分析してイトカワ起源か調べる
1つに半月かかるとして
問題は40個あるかもしれないときに
最初の1個を採取したときに
その半月のペースに乗せていくかどうか
40個×0.5カ月
20カ月かかる作業に入るのか
やり方を向井さんが考えている
最初にカタログ化して
その中で可能性の高いものに集中して分析
質問は多分
この1個をどうして最初の分析にかけないんだ
ということだろうが
40個からたまたま1個持っては来たが
半月かけるのが効率的な方法かどうか
最初に見つかった1個が
可能性が高いかどうか
最初の1個じゃ分からない
とにかくカタログ化を優先しているのはそういう理由
Q 産経新聞
粒子と同定されたのが2つ?
A 向井
そう2つ
Q この写真
これが2個のうちの1個か
A 向井
スケールがないので分からないが
10ミクロンか20ミクロンか
Q もう1個の微粒子の写真はない?
A
同じようなものだったので
ー相模原
Q 青木
キャッチャーを閉める作業はずいぶん後だった
その間に入る可能性は本当にないのか
A室とB室を分ける回転部分
ぎこちなかったがEMだからか
そこがこすれて微粒子が入った可能性は
A 川口
回転塔はB室、A室、そしてCは最後オープンな空間
これはタッチダウンの1~2日後に閉めている
ずっとあとに閉めたのはカプセルのフタ
キャッチャーの回転塔のフタじゃない
分割の仕方 隙間があるじゃないかと
実際にこんなもの
きっちり気密にできているかといえばそうじゃない
逆に資料が取れていると
極端にクリアランスがない構造は噛み混んでしまう
それをさけるためにきっちりしたシールはしていない
危険なので
Q 回転塔が擦れてその金属片が紛れ込む可能性はないか
A
擦れないようにはできているが
ほかのものが入り込む要素や隙間は空いている
Q 松浦
下の写真
どれが粒子か
A 向井
一番底もその上の白いのも
Q 不明
初期分析はいつくらいか
目処は
A 向井
8月の最初は想像できない
もっと遅いと思う
A室がこの状況
丹念に調べようとしている状況
Q 最短では
A 3カ月後には始めないとまずいなとは思う
9月末~10月には始めないと
さすがに具合が悪い
もっと早いかもしれないが
あるところからヨーイドンで始められるものではない
粒子かどうか見分けながら試行錯誤している
一部試しに分析することが途中であるかもしれない
地球由来であろうと宇宙由来であろうと
重要なのはなくさないこと
そこを慎重にやっている
Q 毎日新聞
もしイトカワ由来のものが入っているとしたら
どこが一番可能性は高いのか
A室かB室か
A 川口
答えは難しいができない
どこでも入っていて欲しいw
Q 一番入っていそうだからA室から開けたわけではない?
A 向井
A室を開けたのは作業の順番
Q 朝日新聞
B室を開けるのはいつか
見通しは
A 向井
まだ見通しはない
Q 東京新聞
前回の会見では
初期分析の開始前にイトカワ起源の確認もありえると
A 向井
可能性が高いということは
電子顕微鏡で形をみるとか
元素組成を見るとかで
可能性が高い
80%という感じ
可能性が高いものを
見分けることはできると思う
Q 識別でき次第発表とあるが
A それは数カ月
同位体分析とかをしないと
同定されれば
NatureやScienceに論文を出さないといけない
そうなるとNASAとJAXAで同時発表になる
早ければ今年の後半
Q 論文にしないと発表しない?
A 向井
私はそう思う
A 川口
NASAの理解も得た上で
成果を学術論文に出していきたい
これはいろいろ
着陸運用のときにも言われた話だが
規制や報道協力をお願いすると
評判が悪いのでなんとかしたいが
そうしていきたい
ーーーーーーーーーーここまで
この日、公開されたのは以下の2点の写真(提供:JAXA)。上はサンプルキャッチャー内部で確認された微粒子の写真で、100倍の光学顕微鏡によるもの。右に伸びているのは石英のマニピュレータで、その上には少し斜めに影が見える。下はサンプルコンテナの写真。肉眼でも何かが入っているのが見える。
イトカワのサンプルを格納しておくのがキャッチャーと呼ばれる円筒形の容器で、これは内部で上下に2分割されている。その1つ、A室と呼ばれているのは2回目の着陸時に使われたもので、現在はこちらが調査対象となっている。もう一方のB室は1回目の着陸時のもので、こちらはまだフタが開けられていない状態だ。
タッチダウンの際、舞い上がった微粒子はサンプラーホーンを経由して、このA室またはB室に入る仕組み。ちょうど中間に大型ビルでよく見かける回転タイプのドアが付いており、最初の着陸ではB室側、2回目の着陸ではA室側が開けられていた。その後、さらに回転して、どちらも閉められた状態になるわけだ。
キャッチャーはコンテナに格納され、その上からフタを閉めた状態でカプセル内に入っていた。コンテナ内で見つかった目視可能な物質が地球由来のものと見られている理由の1つは、キャッチャーの外側にあるということだ。もっともイトカワ由来の可能性はゼロではなく、今後の調査結果が待たれるところだ。
キャッチャー内部でこれまでに調べたのはA室の一部ということだが、これは円筒内部の壁を顕微鏡で見るのが難しいためだ。以下の写真を見て欲しいが、最初に調べたのは最も見やすい平らな部分のみとのこと。側面はまだ見ておらず、今後、さらに微粒子が見つかる可能性が高い。反対側には未開封のB室もまだある。
キャッチャーの中を良く見ると、底の部分の縁には溝があり、地上での経験ではこういうところにゴミがたまりやすいが、ちゃんとこういった部分まで調べるとか。なんでこんな調べにくい形状になっているのか知らないが、かなり根気のいる作業であることは間違いない。