リモートカメラで打上げを撮る!~H-IIAロケット15号機の巻(前編)
H-IIA/Bロケットの取材時、我々プレスが打上げを撮影しているのは、主に竹崎展望台である。安全のため、射点から3km以内への立ち入りは禁止されているので、この竹崎展望台もそれ以上の距離にあるのだが、じつは、もっと近くから撮影する手段があるのだ。
種子島宇宙センターの竹崎展望台。ここにプレスセンターがあり、屋上から撮影できる | ここから、肉眼に近いイメージだとこんな写真になる。ロケットがかなり遠くに小さく見える |
今年1月、私はRobot WatchでH-IIAロケット15号機の打上げを現地・種子島より伝えた。取材する一方で、このとき、じつはそれを試していたのだ。
その手段とは、リモートカメラによる自動撮影。本レポートは、ロボット技術を活かしてこれに挑戦した顛末記である。
○まずは要求仕様をまとめる
細かいところは打上げごとに異なっている可能性もあるので、以下はH-IIAロケット15号機の場合として、話を進めたい。
プレスに配布された取材要領を見ると、使用可能なカメラについては、タイマー式、音響感知式、光感知式等の起動方式によるもの、と記されている。無線はロケットの機器に影響が出る恐れがあるため、一切使えないのだ。タイマーによるタイミングか、センサーによる反応で撮影するしかない。
撮影場所に電源は用意されていないので、バッテリも考える必要がある。ここで問題になりそうなのは、スタンバイ時間の長さだ。15号機の打上げウィンドウは12:54~13:16と短いのだが、カメラを設置できる時刻は前日の15:30~16:00あたりになるという。ほとんど、丸1日待機できるだけの電力を確保する必要がある。
カメラを設置可能なポイントは3カ所。最も近いところは「海岸通前カメラ用スタンド」で、これは中型ロケット発射場の目の前にある。Googleマップで計測してみたら、射点からは直線距離でおよそ700mという好条件である。ただし、撮影ポイントは全て屋外にあるので、雨や風に耐えうる装備が必要となる。
海岸通前カメラ用スタンドの場所はこのあたり。
○そして設計を考えてみる
以上を考慮した結果、私はマイコンボード「KCB-1」(近藤科学)とサーボモーターを組み合わせた自動撮影システムを提案した。サーボモーターでシャッターを押す仕組みなので、どんなカメラにも使える汎用性の高さが特徴である。
近藤科学のマイコンボード「KCB-1」。同社のサーボモーターを簡単に動かせるのが特徴である | サーボモーターを使ってシャッターを押すことにした。指となる部分はアームを切って作成した |
起動方法は、一番確実なタイマー方式を採用する。設置時に、プログラムで時間をセットして、その時間が経過したときにシャッターを押すのだ。ただし、この方法だと、少しでもタイミングがずれると打上げの瞬間が撮影できない上、天候や不具合でスケジュールが遅れたときには対応できない。
この問題は、スチールではなくてムービー撮影にすることで解決した。少し早めに撮影を開始すれば、ムービー中のどこかで打上げが写っているだろう、という算段だ。今回に関しては、打上げウィンドウが22分間と短いのも好都合だ。30分間くらい撮影すれば、十分カバーできる。
本当ならば、もっとスマートにセンサー式を使いたいところなのだが、音にしても光にしても、ロケットは一発勝負なので、本番と同条件での試験ができないのが不安材料。起動しませんでした、という最悪な事態だけは避けたいので、今回は最も無難な方法を採用したわけだ。
バッテリは少し困った。シャッターを押して撮影するためには、カメラの電源は入れっぱなしでないといけない。外付けのリチウムバッテリを使うことにしたのだが、これでも少し足りないことが判明。シャッターとは別に、電源を入れるためのサーボモーターを設置することも考えたが、これは面倒くさい。どうしようか迷った末、KCB-1でリレーを制御して、撮影の直前にカメラに電源を供給するようにした。
バッテリはカメラ用のほか、マイコンとサーボモーターの分も用意する必要がある。これは特に工夫はせず、ニッケル水素バッテリの大容量タイプ(800mAh)を使った。じつはリモートカメラの準備が直前になってしまい、本番と同条件(約21時間の待機)の動作テストは一度もできなかったのだが、8時間テストの結果から、なんとかもちそうだ、という目処はついている。
あとは防水対策なのだが、手っ取り早いのは防水カメラを買うことだ。もちろんそれも考えたが、主に金銭的な理由により却下。現地での工作でなんとかすることにして(天気予報が晴れで、何もしなくても大丈夫という可能性にも期待)、最悪、壊れてもいいように、すでに引退した古いカメラを使うことにした。そのため、動画はQVGAというショボい解像度になってしまうが、今回はテストということで妥協した。
中編に続く。