月探査ナショナルミーティング

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4月3日に開催された「月探査ナショナルミーティング」を取材してきた。

公式WEBサイト
https://www.boshu-jaxa.jp/tsukitansaNM/

このイベントが”ナショナルミーティング”という名にふさわしかったかどうか。答えはノーだ。一応、媒体の取材で行っていたのだが、「記事にしない」ということで、抗議の意志を示したいと思う。結局、何のために開催したイベントだったのか。

民主党政権になってから発足した「今後の宇宙政策の在り方に関する有識者会議」では、いま、本当に月でいいのか、という議論まで出ている。自公時代から続く「月探査に関する懇談会」側としては、月探査にはこういう意義がありますよ、ということを全力でアピールすべきだし、そういう説得力のある話が聞きたかったのだが、驚くほど危機感は希薄。熱意も最後まで感じられなかった。

当日のプログラムは以下の通り。

13:00 第1部講演

13:05~13:20 日本の月探査の現状(JAXA・加藤學教授)
13:20~13:50 米国の宇宙探査と日本への期待(NASA ジャスティン・ティルマン駐日代表)
13:50~14:00 「月探査に関する懇談会」における月探査シナリオ(月探査に関する懇談会・白井克彦座長)

14:00~14:20 休憩

14:20~16:45 第2部討論「日本らしい月探査への夢と希望を皆で語ろう」
パネリスト:
前原宇宙開発担当大臣、JAXA・若田宇宙飛行士
白井克彦、井上博允、古城佳子、長谷川義幸、山根一眞
学生パネリスト5名

16:45~16:55 休憩

16:55~17:30 第3部対談「月探査への期待」
若田宇宙飛行士、山根一眞、前国立天文台長・海部宣男

第1部は、まぁいい。基礎知識があまりない人も会場にはいるだろうから、現状の説明は必要だ。「月探査に関する懇談会」についての白井座長の説明については、いろいろと思うところがあるのだが、それは後述したい。

問題は第2部。「ナショナルミーティング」というからには、この「討論」がメインになるべきだ。時間も2時間25分と長く確保しており、(この手のイベントでありがちな、まず各パネリストがそれぞれ10分くらいでプレゼンして、最後の議論の時間がほとんどありませんでした…ということにならなければ)十分議論になるだろう。前原大臣の出席も意味として大きい。担当大臣がどう考えているのか、議論を通して知りたい。

が、しかし。

「なんじゃこりゃ?」とまず思ったのは、ひな壇の配置。前列に座ったパネリストの後ろに、50人くらいいそうな学生達。この人数で討論するのか? それに、「月探査に関する懇談会」の構成員5名はいいとして、一般からのパネリストが学生のみというのはどういうことだ?

最初に、学生パネリストからのショートプレゼンがあった。面白い意見も少しあったのだが、全体として見れば、若者らしい青臭さがあり、優等生的な答弁といった印象。そりゃそうだ。学生がこんな場に出てきて、批判的なことはなかなか言えるものではない。学生を集めたのは、「将来の月探査を担うのは次世代の若者だから」という理由らしいが、単に、扱いやすいような人選をしたのでは、と思えてしまう。

念のため補足しておくと、5名の学生パネリストは、みな真面目に考えて、参加していた。問題なのは、むしろ大人の側だ。「討論」といいながら、「すごいねー」「しっかりしてるねー」的な反応でべた褒めするばかりで、はなから対等に話し合おうという雰囲気は感じられなかった。一体、何のために集めたのか。

そして最大のガッカリ事項は前原大臣。1時間も滞在しておらず、ひな壇の学生とのやりとりが少しあっただけで、会場との意見交換は全くないままだった。これで国民との対話を果たしたと言えるのか。

発言内容も、あまりにもお粗末。せっかくの国民との対話の場だ。ケネディばり、とまでは行かなくても、「~年までに~をやる!」と宣言くらいして欲しかったのだが、「国民の意見を聞いて決めたい」などの姿勢に終始。挙げ句の果てに、「情報収集衛星はもっと必要」などと言い出す始末だ。彼は、「今後の宇宙政策の在り方に関する有識者会議」で先生方からちゃんとした意見を聞いているはずだが、一体何を勉強してきたのか。もともと、タカ派の政治家なわけで、情報収集衛星が大好きなことは分かっているが、このイベントでわざわざ言うべきことだろうか。

もう1つ。他国が月に人間を送ったときに、日本人がそこに行けなかったら、「誇りや自尊心が失われると思う」というようなことを言っていたが、本気で言っているのだろうか。これは個人的な感覚なので、人に押しつけるつもりはないのだが、私はもう40年も前に人間が行った月に再び誰かが行ったところで、あまりワクワクしない。それよりも未踏の地だ。火星に行くためには大きなギャップがあるが、地球近傍小惑星なら、現実的な予算・スケジュールで実現できるという検討もある。イトカワみたいな小さな星に、人間が立っていたら、もっとワクワクしないか?

加えて言うならば、月探査は、誇りや自尊心などでやるべきことではない。第2部のタイトルにあるような、夢や希望でやるものでもない。これは現実の話として議論していることだ。科学的な意義や、あるいは将来の利用を考えた上で、戦略的にやるべきこと。第2部は、タイトルからしてボケている。いまだに夢だ希望だと言い出しているようでは、建設的な議論ができるわけがない。

前原大臣が退席後は、もうグダグダ。ひな壇の後ろの学生に話を振ったり、たまに会場から意見を聞いたり、1時間以上も、生ぬるい時間が過ぎた。第3部が押し気味だったので、むしろそっちに時間を配分した方が良かったのでは。

話が前後したが、第1部の白井座長の話について、思ったことを少し。私はこの講演中、日本がなぜ有人の月探査を目指すのかについて、白井座長がどう説明するのか、注意深く聞いていたのだが、結論から言うと、満足のいく内容ではなかった。月探査をやるということ。これはいい。科学的な意義は分かる。では、なぜ有人なのか。無人機による探査だけでは駄目なのか。一番大事なのはそこなのだが、明確な説明がない。

私としては、もし本当に「月を経由しなければどこにも行けない」というのであれば、どんどんやって欲しい。私は人類が外へ進出すること自体には大賛成なのだ。しかし実際には、様々な選択肢が存在する。最初が月の有人探査でいいのか。順番の差はあっても、いずれ将来には、月面を利用するようになるだろうが、いま議論しているのは、この10年、20年の話だ。宇宙予算が限られる中で、まずは最大の効果が得られる場所に投資する必要がある。

日本は独自の有人輸送手段を持っておらず、このまま月を目指すのであれば、他国との協力が必須となる。私が懸念しているのは、膨大な経費をかけながら、キーとなる技術は結局他国に握られたまま、という事態だ。とりあえず日本人を月面に送ることはできても、それで日本のプレゼンスが向上するのか。同じだけの予算を使うのであれば、もしかしたら独自の有人ロケット・宇宙船が開発できたのではないか。もしかしたら、小惑星にも行けたのではないか。

もともと、日本が月の有人探査を言い出したのは、ブッシュ前大統領のコンステレーション計画が前提としてあったはずだ。しかしオバマ政権になり、それはキャンセルされた。影響は決して小さくないはずだが、「月探査に関する懇談会」はいまのところ、当初の慣性だけで動いているように見える。米国なしでどうやって行くのか、明確なビジョンが見えてこない。

白井座長からは、月探査のロードマップについて、2015年頃、2020年頃、2025年頃と、段階的に探査機を送るというプランの説明があった。この計画自体は良いと思うのだが、「2015年頃」となると、こんなのんびり議論ばかりしていて、果たして間に合うのだろうか、という気がしないでもない。本当ならば、「かぐや」後継機くらい、もう予算を付けてさっさと開発を始めていないとおかしいのだが。

まぁ、「月探査に関する懇談会」も、当初は2足歩行ロボットの是非について紛糾するという馬鹿げた事態になっていたわけで、今回の説明において、イラストやCGにヒューマノイドが全く出てこなかったのはまだ良かった(上半身だけヒューマノイドの”ガンタンク型”はあったが)。ここにきて、ようやく本来の議論に戻れたということかもしれない。井上委員は相変わらず、ヒューマノイドを支持しているようだけれど。

イベントの最後、前方のスクリーンに大画面で「かぐや」からのハイビジョン映像が映し出され、「ふるさと」の唄が流れる。「いいイベントだった」と感動して帰ってもらおう、という意図が見え見えの演出を、私は冷め切った思いで見ていた。とんだ茶番。これで、「国民からの意見を聞いた」とでも言うつもりだろうか。

この意味のないイベントで、1つ光るものがあったとすれば、それはやはり若田宇宙飛行士の存在だろう。彼は、このイベントのために、前日に来日し、米国にとんぼ返りするという。疲れもあるだろうに、終始笑顔で対応し、自分の役割を果たしていた。それだけに、この内容はあんまりだろう、という思いがある。

イベント終了後、控え室にて、若田宇宙飛行士の囲み取材があった。以下、私の質問への返答のみ抜粋して掲載する。

Q 月に行くにしてもどこに行くにしても、まず地球低軌道に出る能力がなければ話にならない。そういうこともあって、若田さんは「日本も独自の有人輸送手段を持つべきだ」と言っているのだと思うが、気になったのは前原大臣の反応。以前、若田さんと会談したときは、もっと前向きな発言をしていたように思うが、今日は情報収集衛星を力説していたばかりで、ずいぶんと後退したような印象を受けた。若田さんはどう感じたか。

A 大臣からは、日本がやらなければならないミッションは何か、しっかりと見つめ直す必要があるという話があった。情報収集衛星の重要性についても仰っていた。そのために、日本はロケットを持っているんだと。そういう意味では、ロケットの信頼性を高めていくことは、人工衛星を打ち上げることのみならず、長期的に見れば、それが有人宇宙機に使えるような信頼性の高さに繋がっていくと思う。大臣がミッションを明確に捉えているということで、それは有人にも繋がっていくんじゃないかと、そういう風な印象は持った。

Q 今回、後ろ向きになったというようには捉えなかった?

A ええ。前回の会談は、大臣になられた直後だった。それからの間、本当に宇宙のことをしっかりと勉強されて、世界における宇宙開発の現状を捉えた上でのご発言だったという感じを持っている。

Q 個人的には、「日本も独自の有人ロケットを持つ」と宣言くらいして欲しかったのだが。

A そうですね。ただ、やはり宇宙開発担当大臣が自ら、こういうナショナルミーティングという機会に参加して、しかも学生の皆さんとこんな長い時間お話をしてくださったケースというのは、なかなかまれなケースだと思う。前原大臣のほか、泉政務官もいらっしゃってくれたが、政治の分野でも、月探査に関して強く関心を持って、取り組んでくれているという印象を持った。

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